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赤ひげ診療譚 [歴史小説(日本)]


赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1964/10/13
  • メディア: 文庫



 長崎に遊学して蘭方医学を学んだ後、江戸に帰ってきた若き医師、保本登。彼は幕府の御目見医として出世の道に進む予定であったが、なぜか小石川養生所という場所で見習い医をすることになる。養生所の医長である「赤ひげ」は一風変わった人物。貧民ばかりを相手にし、言動もがさつ、見習いの扱いも厳しい。保本はそんな「赤ひげ」に最初は反発をするが、次第に惹かれるものを感じ始め……。

 赤ひげと若き医師との心の交流を描いた作品。

 主人公の若き医師保本は、出世ばかりを気にする俗物的な人間だった。保本にとっては、赤ひげのところで働くのが苦痛で仕方がない。患者の部屋も医員の部屋も狭くて牢屋のよう。畳すら置いてなくて、寒々としている。着るものも白の筒袖で牢屋の仕着みたいに見える。赤ひげはまるで養生所の独裁者。そんなふうに保本は考えて、ひとり酒を飲んでは憂さ晴らしをする日々を送っていた。

 だが、保本が赤ひげと接するうちに、赤ひげに対する印象がだんだんと変わり始めるのである。患者からの評判も悪い赤ひげだったが、実は患者たちに真摯に向き合っていることが見えはじめる。自分に厳しく、労を惜しまず、貧しい人間への情を貫く。赤ひげの豪胆な態度の裏に、医師としての理想の姿が見えてくるのだ。

 保本の赤ひげに対する印象が変わるにつれて、保本自身の態度も変わり始める。一見牢屋のように見える病棟にも、医学的な理由があることも分かり、彼は赤ひげのやり方を自分から進んで見習っていくようになる。そして、医師としての経験や見識を深めていく。

 教養小説というか、若い医師が徐々に変化して成長していく物語といえるだろう。保本の内面が変化して、今まで見えなかった世界が広がっていく。一人の医師がすくすくと伸びていく様子を描いていて、読んでいてすがすがしい気分になった。

 赤ひげと保本の交流というだけでなく、患者たちの物語でもある。連作短編集の形をとっていて、各短編ごとに奇妙な症状を見せる患者たちが登場する。その患者たちをふたりで診察するのだが、実は患者たちにはそれぞれ人には言えないような秘密を抱えていて、各話の終わりにその秘密が解き明かされるというしかけ。ミステリー仕立ての作品ともいえ、単純に物語としても面白かった。

 江戸の町の庶民の人々の人間ドラマを味わうことのできる名作。黒澤明が映画にもしているけれど、本書を読んで映画の方も久しぶりにまた観てみたくなった。
タグ:山本周五郎
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