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運命のボタン [SF(外国)]


運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

運命のボタン (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: リチャード・マシスン
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/03/26
  • メディア: 文庫



 幻想と怪奇の作家、リチャード・マシスンの短編集。

 ありふれた日常を送っていたはずの主人公たちが、ぽっかり空いた異次元への裂け目を通って、不思議な世界にさまよい込んでしまう。そんな奇妙な物語ばかりを集めた作品群だ。

 表題作「運命のボタン」は、ある夫婦の元に届けられた押しボタンつき装置の話。そのボタンを押すだけで、大金がもらえるという。ただし、その引き換えに世界のどこかで見知らぬ人間が死ぬことに……。

 「死の部屋のなかで」 アメリカの砂漠地帯をドライブしていた夫婦が、途中でおんぼろレストランに立ち寄る。夫がトイレを借りるが、そのまま帰ってこない。あせった妻は夫を探すがどこにも見当たらない。それどころか、店にいた人間は、誰も夫のことを見ていないという……。

 「小犬」 自宅の中にいつの間にか入り込んでいた白い子犬。サラはぎょっとして犬を追い出すが、なぜか家の中に戻ってくる犬。追い出しても追い出してもいつの間にか家の中に入り込んできて……。

 「二万フィートの悪夢」 旅客機で旅行中のビジネスマン、ウィルスン。彼は飛行機が苦手で眠ることができず、ふと窓の外を見ると、翼の上に人影が……!?

 この短編集に出てくる作品に共通するテーマは、「恐怖とは何か」ということだった。

 主人公やその家族が死の危険にさらされる作品が多いし、文字通り怪物が襲ってくるような話もあって、物語として怖い。じわじわとくる恐怖とサスペンスも味わえる作品群である。

 だが、モンスターが怖い、幽霊が怖いという単純な話でもない。マシスンはそうした表層的な怖さだけではなく、もっと根源的な恐怖を描いていた。

 この作品集に出てくる主人公たちは、超自然的な体験をする中で、大切にしている家族との信頼を崩壊させてしまったり、誇大妄想のように思われて社会から孤立してしまったり、人間として越えてはならない線をまたいでしまったりする。極限状態に追い込まれてしまった人々が、狂気に走ったあげくに、大切な何かを失ってしまう。そういう社会心理的な怖さのある作品でもあるなあと思った。

 怪異が襲ってきてゾッとするという怖さも面白いけれど、あくまでも超自然的な部分は触媒にすぎなくて、主人公たちは超自然的体験をきっかけに少しずつどこか社会規範からズレた行動をとるようになって、そのズレがとんでもない方向に進んでいく。主人公たちの世界ががらがらと崩れ去って、狂ったような行動に走ってしまう。その転落していく感じがとても怖いのだ。

 SF短編・ショートショートとして、物語としても皮肉が利いていて面白い作品ばかりだが、それ以上に恐怖とは何かという問いかけがあって、深掘りして楽しむこともできる短編集。こんな事態に巻き込まれたら、自分も主人公たちのように狂気に走ってしまうのではないか? しょせん文明社会や社会規範なんて薄皮一枚のもろいものなんじゃないか? そんなふうに思わされる怖さがあった。 
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