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ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密 [コラム(映画)]

 この時期はアカデミー賞関連の映画が上映されるので、名作ぞろい。どれを観ればよいか迷ってしまう。

 そんな中、アカデミー賞は取らなかったものの、「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」という映画が面白かった。

 邦題に「名探偵」とついていることからも分かるように、ジャンルはミステリー。雰囲気としては、アガサ・クリスティーの小説に近い。古きよき館、殺されたミステリー作家、遺産相続で大モメ、被害者を憎んでいた大勢の容疑者たち、名探偵登場といったミステリーに欠かせない要素が目白押しである。

 こういうガチガチのミステリーを映画にするのは難しそうだ。謎解きだけで2時間近く引っ張るのは大変だろうからだ。最後の謎が解けるところは面白いけれども、過程が問題である。本の場合は途中で中断しながら読めるからいいけれど、映画でパズルのピース集めだけを継続して観るというのは退屈にならないか。

 ミステリーを題材にした映画があると、この辺の処理の仕方がいつも気になるのである。

 よい例が「名探偵コナン」だろう。原作では謎解きで引っ張っていることが多いが、映画になるともはや名探偵ものというよりアクションヒーローものみたいになっている。謎解きだけだとやっぱり盛り上がりが欠けるということなんだろう。

 「ナイブズ・アウト」も最初の30分くらいは正直退屈だったのだが、途中から俄然面白くなった。というのも、途中からある人物の視点から描かれるようになり、その人物が危機的状況に置かれる。このピンチをどう打開していくのかというハラハラドキドキのサスペンスになっているのだ。

 ストーリーはこういう風に盛り上げるのかという手本のような映画と言える。

 骨格となる謎解きの完成度も高かった。最後にどんでん返しがあるし、あちこちに伏線が張ってあって、そういう意味だったのかと後になって分かる。アガサ・クリスティーが好きな自分にとっては拍手喝采ものだった。

 というわけで、ミステリーとサスペンスの配合が絶妙な傑作。ミステリー好きにおすすめの作品である。続編がぜひ観たいなと思っていたら、既に製作が決まったとのニュースが……。早くも楽しみである。

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脱走王と呼ばれた男 [伝記(外国)]


脱走王と呼ばれた男:第二次世界大戦中21回脱走した捕虜の半生

脱走王と呼ばれた男:第二次世界大戦中21回脱走した捕虜の半生

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/03/26
  • メディア: 単行本



 第二次世界大戦中に、捕虜収容所から21回も脱走したという伝説的な人物、アレスター・クラムの伝記。

 アレスターはイギリス陸軍砲兵連隊の中尉で、戦前は弁護士をしていた人。北アフリカ戦線に送られ、キレナイカのシディ・レゼクの戦いで爆発にあい、気がつくと捕虜になっていた。その後はシチリア、イタリアへと収容所を転々とする日々となる。

 戦時中の収容所などというと、厳重に警備されているイメージがあるが、案外スキも多かったようだ。なにしろ限られた人数で大勢の捕虜を管理しなくてはならないのだ。

 捕虜たちはスキを見つけるや、あの手この手で脱走を繰り返したんだとか。アレスターもまたそのひとり。こんなに脱走が頻繁にあったとは本書を読むまで知らなかった。

 実際にどうやって脱走を試みたのだろう? 方法はいろいろあったようだ。トンネルを掘る、フェンスを乗り越える、イタリア兵や修道士に変装して門から出ていく、配送トラックの下にしがみついて逃げる、列車から飛び降りるなどなど。

 だが、本当に難しいのは、収容所を脱走した後だった。あちこちに人の目があるし、主要な関門には見張りがいる。外国人になりすましたり、人気のない時間帯や山道を歩いたりして脱出ルートを模索するのだが、結局見つかってしまい、捕まることが多かったのだとか。

 アレスターは何度も捕まっては懲りずに脱走を繰り返している。だんだん要注意人物とみなされるようになり、要塞のような収容所に入れられるのだが、そこからさらに脱走する。

 本書を読んでいて一番面白かったのは、アレスターが捕虜収容所を逃走したり、収容所を転々とする様を追いかけていく間に、当時のイタリアの状況が垣間見えてくるところだった。

 イタリアは第二次世界大戦の始まった当初から戦争に参加していたわけではなかったが、ドイツが優勢になると、ムッソリーニが英仏に宣戦布告する。だが、市民レベルでは必ずしも戦争一色でもなかったようだ。本書を読むと、ムッソリーニを嫌う人、ドイツの始めた戦争に巻き込まれたと感じる人、イギリス人と分かってもアレスターを助けようとした人などが大勢出てくる。

 北アフリカのエル・アラメインの戦いが連合軍の勝利に終わると、戦局が変わる。英米両軍はシチリアに上陸し、イタリアは敗北を覚悟。連合軍と休戦協定を結ぶ。

 この休戦協定によりアレスターも解放されるのかと思いきや、そうはいかなかった。イタリアは南北に分断。南イタリアが連合軍に占領されたのに対して、北イタリアはドイツ軍に占領されてしまったのだ。まずいことにアレスターがいたのは北イタリアの方だった。

 アレスターは捕虜の身柄のまま、今度はドイツに送られることになる。ここから話の趣が異なってくる。前半のイタリア編は、戦時中の話でありながら華麗な雰囲気もあったのだが、後半のドイツ編からは深刻なイメージに変貌する。ゲシュタポが脱走した捕虜は処刑すべしという指令を出したため、脱走がはるかに危険なものとなってしまったのだ。

 アレスターの動きを追ううちに、国による捕虜の扱いの違いまで見えてきて面白い本である。当時の世界情勢が変遷する様子も歴史の勉強になった。ただの歴史の解説書にはない、生き生きとしたエピソードが満載なところもよかった。


脱走.jpg

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杉の柩 [ミステリ(外国)]


杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

杉の柩 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/05/14
  • メディア: 文庫



 ミステリーは謎を解いていくジャンルなので、手がかりを集めていくシーンが必要だろう。

 ところが、この手がかり集めというやつ、聞き込みの繰り返しで単調になりがちである。読んでいてだんだん飽きてくるというのはよくあること。早く結論が知りたくなって、思わず飛ばし読みをしたくなってくる。

 文芸評論家からもこの種の指摘はあったようで、クリスティーもおそらく意識していたのではないだろうか。聞き込みだけの単調な作品にならないように工夫がみられる。

 「杉の柩」を読むとそれがよく分かる。3部構成になっていて、ポアロが手がかり集めをするのは第2部だけ。第1部はロマンス劇、第3部は法廷劇となっているのだ。

 この3部構成が非常に効果を上げている。

 まず、第1部のロマンス劇がたいへん読ませる。婚約中のロディーとエリノア。そこに女神のようなメアリーが登場。幸せだったはずの男女の関係が徐々に狂っていく。彼らの行く末はどうなるんだろうというハラハラがある。聞き込みという形で人間関係が明らかになるよりも、ロマンス劇として愛憎を見せられる方がドラマチックだ。

 ロマンス劇が長くなると、今度はいつ事件が起こるんだというもどかしさが出てきてしまうけれども、この問題もクリスティーはうまく解決している。プロローグにエリノアが法廷で答弁する場面がいきなり出てくるのである。この場面があるので、ロマンス劇も殺人の予感の漂う不穏なものとなり、ミステリーの一場面なんだと分かる。

 そして、最後の第3部の法廷劇も見事だった。検察側と弁護側の熾烈な攻防。あっと驚く逆転劇になっていて、クリスティーは法廷ものを描かせてもうまかったんだなあと感嘆した。

 というわけで、ドラマとして盛り上げるための様々な工夫がありつつも、ミステリーとしての面白さもしっかりみせている傑作。クリスティーの中でもベスト10に入る作品だと思う。


田園風景.jpg

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疑惑 [ミステリ(日本)]


新装版 疑惑 (文春文庫)

新装版 疑惑 (文春文庫)

  • 作者: 松本 清張
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/09/03
  • メディア: 文庫



 松本清張の「疑惑」は法廷もののミステリー。

 岸壁を疾走していた自動車が転落して、海に飛び込む。中に乗っていた女は自動車から泳ぎ逃れたが、同乗していた夫は溺死。

 夫には多額の生命保険がかけられていた。果たして、女が事故に見せかけて夫を殺害したのか? 疑惑が渦巻く中、裁判が始まる。

 松本清張の本はあまり読んだことがなかったが、面白かった。

 何が良いって、検察側と弁護側の攻防。これが丁寧に描かれているところ。

 検察が言う。自動車の中からスパナが見つかった。これは女が自動車から逃れるために用意したものに違いない。フロントガラスをスパナで割って逃げたんだろう。夫は泳げないのを知っていて、女が卑劣な計画を立てたのだ。

 弁護士が言う。いやいや、フロントガラスはスパナで割れたのではない。自動車が飛び込んだ時に水圧で割れたのだ。事故後の実験でも証明されている。だいたい、なんでスパナなんか使うのか。トンカチのほうが確実じゃないか。

 女も自己弁護する。検察はわたしが自分で運転して、海に飛び込んで事故に見せかけたと主張している。でも、運転席をよく見てほしい。運転席とハンドルの間の隙間が非常に狭い。痩せ型の夫には座れても、グラマーなわたしに座れるはずがない。

 検察が言う。それはこんな風に説明がつく。云々。

 法廷ミステリーの醍醐味は、検察が提示する証拠に対して、弁護士がいやこんな見方もできるよとひっくり返す。その熾烈な攻防にあると思う。

 ミステリーは最初の謎の提示と最後の結末は面白いけれど、途中経過は退屈だと言われることが多い。法廷ミステリーは、検察と弁護士の攻防という形で、途中経過もドラマチックに書かれているので、ミステリーの短所をうまく解消している。

 たとえば、海外ミステリーのぺリイ・メイスンなどは、この攻防が絶妙にうまくて、手に汗握るのである。日本でもこういう作品があるというのは知らなかった。最後にどんでん返しがあるのだが、オチよりも途中の攻防が面白かった。


夜の道.jpg

タグ:松本清張
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ヴィジョン [アート]


Vision ヴィジョン ーストーリーを伝える:色、光、構図ー

Vision ヴィジョン ーストーリーを伝える:色、光、構図ー

  • 作者: ハンス・P・バッハー
  • 出版社/メーカー: ボーンデジタル
  • 発売日: 2019/08/09
  • メディア: 大型本



 たまたま書店で見つけた「ヴィジョン」という本を読んで、かなり勉強になった。

 筆者は「美女と野獣」「アラジン」「ロジャー・ラビット」といった映画のプロダクションデザイナー。

 ヴィジュアルでものを伝えるための指南書なのだが、よくあるPhotoshopの使い方とか、ペイントブラシの使い方といった技法書ではない。もっと根本的なことを語っていて、色、光、線、シェイプ、構図といった画像の基本要素について説明した本である。

 映画は映像の連なりだけれども、1コマ1コマの画像もなんとなく撮影されているわけではなくて、きちんと意味があるんだそうだ。

 どんな色を使うか、どんな光を当てるか、どんな配置にするか、アングルはどうするかによって、伝わってくる感情、雰囲気、内容は全く異なるものとなってしまう。

 たとえば、赤と緑といった対照的な色が組み合わさると緊張感が生じる。黄色とオレンジといった類似色は、穏やかで心地よい雰囲気になる。人物のサイズが小さいと、キャラクターよりも背景との関係に目が行く。クローズアップにすればキャラクターの内面や感情が伝わるといったように。

 大事なことは、伝えたい情報や感情と伝え方がぴたりと一致しているかどうかということ。

 ある特定の場面を切り取る方法には無数の選択肢があるだろう。だが、伝えたい情報や感情と一致する色、光、構図、アングルなどは絞られてくるはずなのだ。

 たとえば、「立ち入り禁止」という看板がピンクでかわいらしく描かれていたら、注意喚起にならない。黄色と黒で危険性を煽るから、警戒するようになる。

 自分は趣味でイラストを描いているのだが、この本は、絵を描くときの軸というか、選択基準を与えてくれるところが一番よかった。

 恥ずかしながら、今までは全くの勘に頼って描いていた。色をのせるときも、自分の好き勝手に塗っていた。だが、本書を読んで自分の間違いに気づかされた。ビジュアルでものを伝える映像作家も、100%勘に頼って描いているのではない。いくらかは理屈があるということが理解できたのだ。

 実際に本書を読んだ後に、いくつかハリウッド映画を観てみたところ、色の使い方や光の使い方が本当に本書に書かれているような工夫がされていた。これは新たな発見だ。筆者がデザインを担当した「ムーラン」も観てみた。色、ライン、構図など、本書に書かれている技法が具現化されていて、素晴らしい。
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売れるキャラクター戦略 [ビジネス]


売れるキャラクター戦略  “即死

売れるキャラクター戦略 “即死"“ゾンビ化"させない (光文社新書)

  • 作者: いとう としこ
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/12/15
  • メディア: 新書



 ブログのマスコット・キャラクターを作ろうと思った。

 いかんせん、このブログも停滞気味である。アクセス数が伸び悩んでいるし、更新頻度もどんどん下がってしまっている。なにより更新するモチベーションが起こらず、億劫なのだ。

 このままでは廃墟のようになってしまうのも、時間の問題だろう。何かモチベーションアップ、アクセス数アップのためのカンフル剤が必要ではないか。そこで思いついたのが、マスコット・キャラクターを作るというアイデアである。

 やはり文章だけのブログというのは、読んでいるほうも疲れるのではないか。もっとイラストを多用して、ビジュアルでも楽しめるものにすべきかもしれない。運営する側も、新たな試みということで、モチベーションが上がるというもの。

 なぜマスコット・キャラクターなのか。きっかけになったのは、「売れるキャラクター戦略」という本を読んだから。
 
 作者はコアラのマーチのキャラクターを開発した広告業界の人。キャラクターを使うことのメリットや、キャラクターを生み出す手法、キャラクターを長生きさせるための心得などが書かれている。ブログ、SNSなどのオウンド・メディアでキャラクターを用いることの効用なども紹介されている。

 この本を読んでいて、自分でもむしょうにキャラクターを作ってみたくなったのである。

 では、どんなキャラクターにするか? この本によると、ブランドの思い、コンセプトとリンクするようなキャラクターがよいと書いてある。

 ブログのタイトルは「本の世界の旅人」なので、本好きのキャラクターがよいのではないか。世界を放浪するようなキャラクターにしたら面白いかもしれない。

 もちろんビジュアルも重要だ。この本では、有名キャラクターを分析するとよいと書かれている。
 
 ネットでいろいろ検索してみると、最近の流行は萌え系のキャラクターだと分かる。ただ、このブログには合わない気もする。あれこれ考えて、外国の児童書の挿絵風にすることにした。クマのプーさんとか不思議の国のアリスのようなイメージだ。

 というわけで、試行錯誤の結果、最終的に出来上がったキャラクターがこれ。世界を放浪する猫。

 
猫 (2).jpg


 本には細かい設定を作るとよいとも書かれている。名前や設定はまた追って紹介するつもりである。

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リチャード・ジュエル [コラム(映画)]

 クリント・イーストウッド監督の映画「リチャード・ジュエル」を観た。

 イーストウッド監督の作品は前から大好きで、最近の「ハドソン川の奇跡」や「運び屋」もとてもよかったし、「パーフェクト・ワールド」もいいと思う。

 今回の「リチャード・ジュエル」は、テイストとしては「ハドソン川の奇跡」に近い。英雄が一転、追及される側に回るというお話。

 コンサート会場でテロ事件が発生。警備をしていた主人公リチャード・ジュエルが爆弾を未然に発見して、被害を最小限に止める。リチャードは一躍ヒーローとして時の人に。ところが、注目を集めるための自作自演だったんじゃないかとの疑惑が持ち上がり……。

 いい映画だったけれども、なんだか観ていて拍子抜けする映画でもある。観る前はもっとぺリイ・メイスン的な娯楽ものを期待していたからだろう。証拠でかっちり固められて、絶体絶命の中、証拠の穴をつぶしていくといったようなものだと勝手にイメージしていたのだ。

 ところが、実際には証拠らしい証拠がまるでないのに、あらぬ疑いをかけられるという話なのである。警察の捜査があまりにも杜撰で、これが本当ならアメリカの警察もかなり低レベルといえる。

 アメリカの警察も適当だなあというがっかり感と、自分の観たかったぺリイ・メイスン的展開がなかったくやしさはあるが、実話ベースなのだから仕方がない。アメリカ社会の暗部を描いた作品として、社会勉強にはなったし、作品のクオリティも高いと思う。
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謎のクイン氏 [ミステリ(外国)]


謎のクィン氏 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

謎のクィン氏 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/11/18
  • メディア: 文庫



【注意:以下、映画「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」の結末に触れています】

 年末に「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」を観にいったのだが、案外面白かった。

 旧シリーズの焼き直しみたいなところがあってオールドファンに媚びを売りすぎだとか、主人公の能力が追加されすぎだとか、いろいろ難点はある。だが、冒険活劇としてしっかり楽しませてくれるし、なにより主人公レイの内面の動きが丁寧に描かれているのがよかった。

 とりわけ最後のシーンには感動した。レイの最後に発する台詞がいい。レイの生き方、家族とは何かという作品テーマがたった一言で分かるところが秀逸。

 感動というのはどういうときに生まれるのかなあと考えた。もやもやが晴れて新しい世界が開けたとき、困難に打ち勝ったときといった前向きなもの。逆に、思いを遂げられなかった切なさというのもあるだろう。なんにせよ、登場人物に感情移入して、主人公の心の動き、喜びや哀しみといった感情に思わず共感してしまうことが感動なのではないか。

 レイの最後の台詞が感動的だったのも、それまでの主人公のもやもやがスッキリ晴れて、前向きに生きていこうという感情に共鳴させられるからなのだ。

 感動と言えば、最近、アガサ・クリスティの「謎のクイン氏」を読んで、これにも感動した(よく感動する奴だと思われそうだが)。

 ミステリーというと、殺人事件の謎を解いて正義を下すというのが王道だろうけれど、謎を解くことで感動が生まれるといったタイプのミステリーも存在する。自分はこれを「人情ミステリー」と勝手に呼んでいる。東野圭吾の「新参者」がこのタイプだし、「謎のクイン氏」もこれに当てはまる。

 「謎のクイン氏」はクイン氏という不思議な人物が出てくるミステリー短編集で、ポアロやマープルものとはひと味違う独特の魅力がある。ミステリーなのでもちろん謎解き要素はあるのだが、それにプラスアルファして人情的な感動があるのだ。

 たいていは、登場人物の誰かがもやもやしたものを抱えている。会いたい人と生き別れになって会えないでいるとか、家族に対して何かの疑念があるとか、悩みがあって前に踏み出せないでいるとか、そういったことだ。ここにクイン氏が登場して、謎を解き明かす。謎が解けることで、登場人物たちは、会えない人に会えるようになる、家族への疑念が払拭される、悩みが解消される。謎が解けることで新たな世界が開けるという感動がある。

 とくに「海から来た男」という作品がよかった。ちょっとできすぎじゃないかと思えるほど、最後に全てが収まるところに収まる。オー・ヘンリーの短編を思わせる爽やかな作品だ。

 ミステリーの面白さもパズラーとしての論理展開の興味だけではない。人物に共感させることで、人間的な感動を生むといった作品もある。「謎のクイン氏」を読んでそんな風に感じたのである。
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犯罪「事前」捜査 [法律]


犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術 (角川新書)

犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術 (角川新書)

  • 作者: 一田和樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/10
  • メディア: 新書



 テロ事件が世界のあちこちで頻発している。紛争地域だけではない。ときには、都会のまっただ中で突然テロが起こることだってある。日本でもいつ起こるか、うかうか安心していられない。

 テロ対策は喫緊の課題である。テロ事件は規模も大きく、いったん起きてしまえば、大勢の人が被害を被る。事後的に対処するだけでは遅い。未然にテロを防ぎ、被害をゼロにするのが最も望ましいと言える。

 そこで、世界の捜査機関の趨勢は、「事後」から「事前」へと移行してきている。事前にテロリストの動きを察知して、テロ行為自体を封じようというのだ。本書は実際に捜査機関がどのように事前に捜査をしているのかを紹介した本だ。こんな技術まで使われているのかと驚くような手法も書かれている。

 一番驚いたのは、FBIが用いているとされている「スティングレイ」と呼ばれるツールだ。これは携帯電話を対象にした捜査手法である。誰でも携帯やスマホを使う時代にあって、携帯の中には個人の生活履歴が凝縮されている。もし、テロリストの携帯の中身を読み取ることができれば、テロ計画の手がかりが得られることは必至だ。

 ここでスティングレイの出番である。携帯電話は近くの通信基地局から届く電波を絶えず探して、自動的につながり、移動中も接続が切れない仕組みになっている。スティングレイはこの仕組みを利用したものだ。スーツケースほどの大きさだが、強力な電波を放って、通信基地局になりすます。近くにある携帯電話は、それまでつながっていた通信事業者との接続を中断して、スティングレイと自動的に接続してしまう。

 いったん携帯電話に接続してしまえば、特定の携帯電話を盗聴することができるし、携帯電話の移動経路も把握でき、監視できるというわけだ。

 テロ対策という意味では実に頼りになる技術といえる。しかし、一方で問題となるのは、プライバシー侵害の懸念である。なにしろこのスティングレイ、近くにあるあらゆる携帯電話と無差別につながってしまうのだ。テロリストだけでなく、全く無関係な人の情報まで勝手にのぞき見ることができてしまう。さすがにこれはやりすぎだろう。

 日本でもGPS情報の捜査の違法性が問われたことがあった。最高裁は、GPS捜査はプライバシーを侵害するもので、特別の法律がなければ許容されないとした。スティングレイはGPS捜査よりもプライバシー侵害の程度が大きいのだから、さらに厳格に規制するのが妥当だ。

 しかし、米国はこのスティングレイの使用についてきちんとした規制をかけているわけではない。それどころか、FBIはこの技術の使用自体を秘密裡にしていて、どのように使用しているのかさえ明らかでない。米国というと人権意識が最も強いイメージがあるけれど、まだまだ多くの人権に関する問題を抱えていて、決して完璧ではないことが分かる。

 技術の進歩により、世界はますます便利になり、人々の生活は向上している。しかし、同時にこれまで予想もしなかったような問題も生じる。本書を読むと、技術の進歩は、いい面と悪い面がいつも隣り合わせだということをあらためて考えさせられる。
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ポアロとグリーンショアの阿房宮 [ミステリ(外国)]


ポアロとグリーンショアの阿房宮 (クリスティー文庫)

ポアロとグリーンショアの阿房宮 (クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/01/09
  • メディア: 文庫



 「クリスマスにはクリスティーを!」

 アガサ・クリスティーの小説は毎年クリスマス近くに出版され、こんなキャッチコピーがつけられていたのだとか。

 そんなわけで、クリスマスシーズンになると、むしょうにクリスティーが読みたくなる。今年読んでみることにしたのは「グリーンショアの阿房宮」という作品だ。

 わずか100ページほどの中編で、「死者のあやまち」という長編の元になった話である。「死者のあやまち」の方は以前に読んでいたのだが、「グリーンショアの阿房宮」は長編版と比べても見劣りしない傑作だった。クリスティーのミステリーの面白さが凝縮されていると言っていい。

 探偵のエルキュール・ポアロが友人のミステリー作家のアリアドニ・オリヴァから奇妙な相談を受ける。祭りでミステリー劇を催す予定になっているのだが、何かが起きそうな嫌な予感するというのだ。ポアロはこの奇妙な直観を馬鹿にせず、調査に乗り出すことになる。

 クリスティーの小説でよくみられるように、事件が起こるのは極端に遅い。話の3分の2くらいでようやく殺人事件が起こる。最初のうちは、読んでいて何が起ころうとしているのか全く分からない。事件が起こるまでにポアロがあれこれ調査して、だんだんと登場人物たちの人間関係が分かってくるものの、それぞれの場面に何の意味があるのか不明で、とりとめがないような感じさえする。

 ところが、最後の最後になって、すべての場面が重要なパズルのピースだったことが分かる。関連がないと思われていたピースがかちっと組み合わさって、一枚の絵ができあがる。そういう構成になっている。

 例えば、ポアロが祭りの会場に向かう途中で、重い荷物をもって歩いている観光客の娘に会う。ポアロは親切心で車に乗せてあげる。この場面、一見すると事件と何にも関係なさそうなのだが、実はこれも重要なピースのひとつだったことが分かる。こういう意味のなさそうな場面が伏線だったことが分かるというのが非常に楽しい。

 また、これもクリスティーの特徴だが、ピースが組み合わさって出来上がるものが、想像していたものと全然違う絵柄なのである。表面に見えている世界は実は作り上げられた虚構で、本当はもっと別の世界が広がっているということが暴露される。個々のピースが騙し絵みたいになっていて、ダブルミーニングを持っていたりする。そういう騙しの技巧がさえわたっていてすごい。

 全く意味がないと思われるものが、思わぬ形で意味を持ってくる面白さ。思わぬ形でパズルのピースが組み合わさっていく快感。ミステリーの面白さとはこういうことかと、久しぶりに感動した。
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